INTERVIEW

田口淳吾インタビュー

(2016年5月28日発売の「Bollocks No.025」に掲載された記事のロングバージョン) 

ポストパンクミュージック作ったろかい、とは思ってない

 

ギターがザクザク、キリキリ、ドラムは4つ打ちにすりゃあいいんでしょっと思ってるような安易なバンドが増え、ポストパンクの逸脱感も遂に「様式化」しちゃったんだなと嘆いてた昨今。そんな中で一線を画すバンドが登場! この度、Drriillより2ndアルバム「ぶつかる家の灯りたち」をリリースしたAnisakis。一度聴けば脳や耳に寄生して、こちらの内部で増殖していくような中毒性あり。なりきりアングラもなんちゃってアーティスティックも吹き飛ばす前向きなダークネス。その刺激はあなたに届いた瞬間に細胞を乗っ取りかねない。Vo,Gの田口にメールインタビューを試みた。

 

インタビュー:恒遠聖文

写真:内山未希、高井智紀

 

ニューアルバム聴かせていただきましたけど、聴けば聴くほど病みつきになるアルバムですね。全曲甲乙つけがたいナンバーばかりです。失礼ながら基本的な質問をさせてください。まずANISAKISはどのようにして結成されたバンドなんですか?

僕(田口)とイマチャマ(今泉)は中学の同級生で、といっても当時はほとんど交流はありませんでした。成人式で再会し、どういうわけか音楽の話になり、友達になりました。たしか、深夜番組でThe Rakesのライブ映像が流れててそれをふたりとも観ていたことで盛り上がったんです。しばらくして一緒にバンドを始めました。それまでの僕はもともとパンクバンドを転々とサポートしたりしていました。イマチャマは楽器未経験だったのですが、大丈夫大丈夫、買ってから考えよう、と諭しました。菊治郎(日沼)は2015年に加入しました。

結成時はどのような音楽をやろうと思ってましたか? そこから今 変化はありましたか

懐古主義じゃないパンクミュージックをやろうとか、そんなふうに思ってました。バンド始めたての頃は、影響受ける要素をなるべく減らそうと、音楽を聴かないという実験をしていました。

すごいこと考えますね。

もちろんすぐやめました。

あら(笑)。

今はたくさんの音楽を聴いています。激ポップな曲に実験的なアレンジが憧れです。

以前は違うバンド名でしたよね。なんで改名したのですか? 

厳密に言うと前のバンドを解散してAnisakisを結成しました。なんか、名前にも曲にも飽きてしまって新しくしました。メンバーはほとんど一緒なんですが、スーパーでいうと、つぶれたスーパーの跡地に違うスーパーが建ったけどパートのおばちゃん一緒って感じですかね。

わはは

全然違いますね。そもそもパートじゃないですし。

でもわかりやすいです、それ。Anisakisの由来は?

日本語でも英語でも、発音と意味が同じものがよかったのと、覚えづらい名前は忘れづらい理論によりつけました。僕らはなよなよしててナメられる事も多かったので、寄生虫がもつ、ハードで、ちょい悪なイメージに寄生してます。

Anisakisになる前にライヴをみてますが、ちょうどNEIL’S CHILDRENとかHORRORSとかのポストパンク・リバイバル、ニューウェーヴ・リバイバルの出現ともタイミングが合致してて、あぁ日本にもこういうバンドが出てきたんだなって思ったんです。そういった現行のバンドの影響、もしくは意識したりしたことはありますか?

まさにその2バンドは、出始めからリアルタイムで追ってきましたし、好きです。特にNeils Childrenは衝撃的で、スリーピースバンドのかっこよさを教えてもらいました。現行のバンドのほうが共感や驚きが多くて楽しいです。似たようなルーツや影響を共有できるからです。そしてみんなルーツを越えようとしてて、エネルギーを感じます。Neils Childrenのジョンの弟、ポールが在籍していたElectricity In Our Homesとツアーを回った時は感動しました。今の時代で良かったと思ってます。

私はニューウェーヴ、ダークウェーヴ、いわゆるポストパンクの中でも、バウハウスとか暗めなのが好きなので、Anisakisのサウンドはその琴線にふれてきてたまらないです。ところでニューウェーヴ、ポストパンクなんかは意識してますか? それとも「いや、好きにやったらこうなった」「今の自分らの音楽をやってる」って感じでしょうか?

「好きにやったらこうなった」が一番近いです。「アレンジの途中にある膨大な分岐を、好きな方向に進めたらこうなった」という感じですね。作曲の際に、さーてポストパンクミュージック作ったろかい、とは思ってませんし、意識してませんが、無意識での影響があると思います。ポストパンクと呼ばれてきたバンドがだいたい大好きなので。もうそうなっちゃうのは諦めて、というか自信にして、ポストポストパンクバンドを目指したいです。

それでは、メンバーそれぞれ、どんなアーティスト、バンド、音楽が好きなのですか?

僕はThe ResidentsやThe Victorian English Gentlemens Clubの曲で感じるような、メジャーで明るい構成を利用して不穏な空気感を出す音楽が好きです。古くはTyrannosaurus Rex、最近ではLos Cripisからも似た高揚感を覚えました。イマチャマはThe Monochrome Setのような無機質な印象の中にいいメロディが垣間見えるバンドが好きだと言ってました。あと彼は服好きなので、バンドの見た目も重要視してるようです。菊治郎は本の虫なせいか、歌詞に重きを置いていて、70~80年代の熱い日本のバンドが好きなようです。肉弾は彼に教えてもらいました。彼はAnisakisの他に、えんだぶあという、ジャンクなバンド(菊治郎談)でもドラムを叩いてます。

なるほど、その中でバンド全体として共通するところはどんな感じですか?

共通しているのは、メロディや歌詞がしっかりしていて、ボーカルが埋もれずに、どかっと前に出てる。どかっと感が好きなんだと思います。

さて、今回Drriillからのリリースとなりますが、これはなぜですか?

2015年の終わりくらいにお話をいただきました。もともと交流もありましたし、この話がなければ自分たちで出すつもりでいたので、スムーズに話がまとまりました。

DrriillはYOU GOT A RADIOのYOUNG氏のレーベルですよね。

はい。マネジメントや営業など、僕が苦手なことを色々やってもらってます。今回のアルバムだけではなく、シーンの活性化にも積極的に動いていくそうです。これこれこういう存在がいないとダメなんですよ、と呑んでる席で言い続けた甲斐があります。できるだけ貢献したいと思います。

今回はどんなアルバムにしようと思いましたか、コンセプト、テーマ、抽象的なことでも具体的にでもかまいません。教えてください

作り溜めた曲をまとめただけなので、アルバムのためのコンセプトはありませんでした。

それは意外です。トータル感があります。

それぞれの曲が独立していて色々な感情が渦巻いています。結果的に、一枚のアルバムとしてストーリー性が出ているのではないかとは思います。強いて言えば、生活です。コンセプト。メタ的な人間賛歌とかじゃなく、僕が見てる範囲の生活を考えて歌ってます。

サウンド面、演奏面などで目指したこと、心掛けたことは?

ライブやリハーサルと同じくらいの緊張感と開放感が出ればいいなあと思い、録音に臨みました。あとはミックスダウンで音のバランスなどについて悩んだ際に、他の音楽と聴き比べたりしないように心がけてました。たまにその癖が出ます。聴き比べてもたいした影響はないと思うのですが、あとで気になる箇所が出てきた時に、そのせいにしそうで。そういうとこ多分にあるので。

では、「ぶつかる家の灯りたち」というアルバムタイトルの由来、意味は?

先ほど話したコンセプトのように、独立した生活についての曲を“家の灯り”として、ぶつかれ!と思いました。馴染むな!と。「ぶつかれ! 家の灯りたち」でもいいです。帰り道に寄ったスーパーで思いつきました。スーパーは色々な人が色々な家から来ていて壮観で、はいみなさん、ぶつかれ!と思いましたね。

サウンドは洋楽的なバンドなのに、そっちにふりきらずにタイトルや歌詞、アートワークにも日本のバンド感を入れ込んおりますが、そこは意識的ですか? 自然に?

どれも自然に、です。これまで聴いてきた量で言えば洋楽の方が圧倒的に多いのでそういったサウンドになってるんではないかと思います。テキスト関係は、英語ができないからです。日本語の細かいニュアンスも楽しいです。ネイティブスピーカー並みであれば、英語でもやってたと思います。アートワークについては和洋を意識してません。

タイトルにおにぎりが出てくるギャップもすごいです。

やっぱおにぎりって引きがありますよね。絶対王者って感じですよね。おにぎりというフレーズに食いついてくれる方が多いです。おにぎりだけに。

うまいこと言いますね。

この「おにぎりとティラミス」の歌詞は全部実話で、大人なのにカツアゲされた時の話です。

え!

プライドの持ち方について考えさせられました。

わははは。あと、レーベルインフォには「INU」「アーントサリー」「あぶらだこ」など80年代の日本語アングラパンクをも彷彿とさせる一面もあり、とありますが その辺のバンドからは影響をうけましたか?

はい、もちろんそのバンドたちも好きで少なからず影響は受けてます。それぞれの、現在の活動も好きです。一度あぶらだこのパラノイアという曲をカバーしたこともあります。

え! それは聴いてみたいです。「ある天井、ない天井」なんかは確かにあぶらだこを彷彿させられました。

よし、あぶらだこ風の曲作ろう!と思ってはいませんが、言いたいことはわかる気がします。光栄です。

これは単なる偶然かもしれませんがサイコビリーは聴いてました? 「ファム異」って曲のギターが、かなりBATMOBILEっぽかったもんで……。

サイコビリーは全くと言っていいほど聴いたことがありません。もしかしたらディレイの具合かもしれませんね。なんかすいません……。

いえいえ、こっちこそすみません(笑)。機会あったら聴いてみてください。似てますんで。あと、ジャケットも印象的ですね。ヒプノシスと寺山修二が合体したような印象をうけました。

すごい合体ですね、情緒不定無職、って感じですね。僕はコラージュが好きで、今回はデザインまわりでたくさん製作しました。風景だけとかの抽象的なイメージもとてもオツで惹かれるのですが、画がこっちを向いているような、パワータイプのデザインが音楽活動とは相性がいいと思ってます。今回のジャケットは、外と内、自然と人工、客死願望と郷愁などをイメージし、まとめてショーアップしたつもりです。具体的なメッセージは特にありません。

独特で個性的な曲が並びますが、どのように曲作りされてますか?

思いつきで適当に録りためているフレーズのストックが常にいくつかあって、一日休みの時とかに、ゆっくり考えて作ってます。時間に余裕がないと集中できないので、カレンダーを見て作曲の日を決めて、しっかり寝て、午前中に起きて、ごはんを作って、コーヒーを用意してやっとギターを持ちます。そういう日は深夜までやってます。それでできたデモをメンバーに送って、スタジオで詰めていきます。その段階で歌詞もほとんど乗ってます。

さて、全編 聴きどころでしょうが、特にあれば教えてください

録音時にアドリブで歌詞を変えたり足したりしたんで、新鮮で楽しいです。でも完成品聴いてる人にはなんのこっちゃわからないですね。あとはコーラスワークですかね。

たしかに印象的ですね。

もともと、メンバーに送る用のデモでは音数が多かったものをライブで再現するためにコーラスで補っていたんですが、いつの間にか個性のひとつとして捉えてもらえることが多くなったんで、それは非常にアレです、ラッキーです。

「マリオネット」では、レーベルオーナーのYOUNG さんが参加してるんですよね?

そうです。この曲を作ってる時から、頭の中ではもうイワヤンさん(YOUNG)の声で再生されていて、それを伝えたところ快く引き受けてもらいました。実際に一緒にやってみて、期待以上でも以下でもなく、散々頭の中で聴いていたので、想像通りでした。100点を想像してて100点だったんで。そそそそ、これこれ、と。あの人の声はすごく、ずるい!

いい声ですよねー。では、バンドの目指す世界観があれば、教えてください。(具体的にでも抽象的にでもいいです。EXあの映画のような、とか あの写真のようなとか、色で言えば○○ とかなんでもけっこうです)。

非常に難しい質問ですね。映画だとミヒャエル・ハネケの世界観が好きです。でもバンドにおいては、世界観は考えて作れるものじゃない、というか僕らはできません。曲、歌詞、ライブ、人間性、ファッション、と、作品以外にパーソナルな要素がバンドの表現には多いので。たとえばポストパンクバンドというと、色で言えば黒で、ダークで、ミステリアスで、ってイメージが個人的にはあって、それはスタイリッシュで憧れるのですが、僕らは、根が前に出たいタイプなんで、こう、シュッとできない事が多いです。今日はシュッとしたライブしようね、と楽屋で話すことも多いのですが。考えても意味がないので、無理しないでマイペースに、とにかく一生懸命頑張りたいと思います。

では、あなたのパンク観を教えてください。

音楽やファッションをはじめとする、伝統的なパンク文化ももちろん素晴らしいと思います。もっと好きなのは、全く別物の概念としてのパンクです。それはステレオタイプな多数勢力に対する、革新的で痛快な表現方法だと考えています。マルセル・デュシャンの「ひげを剃ったL.H.O.O.Q.」という作品が一番のパンク作品だと思います。

では、最後に言い残したことメッセージなどあればおねがいいたします。

色々な方に、CDを聴いて、ライブに足を運んでいただけたら嬉しいです。ジャンルや世代を超えて、何かを感じたり刺激を受けたりしたいと思っています。交流も増やせたら増やしたいです。僕自身は鬼のように人見知りですので、ワッサ!みたいな、スキージャンプくらいの角度の握手だけはご遠慮いただきたいです。そのあとのトントントン、トン、イエーみたいなのはフィニッシュまでできる方いたら教えていただきたいです。ありがとうございました。